行政書士が開業後に取り扱う業務の中でも、「農地転用業務」は専門性が高く、依頼が安定しやすい分野です。
農地は「農地法」によって用途が厳格に制限されているため、転用手続きを正しく理解・実践できることは、開業直後の行政書士にとって大きなアピールポイントになります。
本記事では、農地転用業務の基本から実務フロー、注意点、想定顧客、関連業務の展開、さらには実例紹介やFAQまで盛り込み、詳しく解説します。
この記事を読むことで、農地転用業務の全体像を把握し、実務に自信を持って臨めるようになります。
農地転用業務の基本的な定義・概要
農地転用業務とは何か?
農地転用業務とは、農地法に基づき「農地」の用途を変更し、宅地や商業用地、公共用地など農業以外の目的で利用可能にする手続きを指します。
農地法は農地の乱開発を防ぎ、食料生産基盤を守るために制定された法律です。
そのため、無届で転用を行うと罰則(刑事罰や過料)が科される場合があります。
行政書士として適切な許可申請をサポートすることは、顧客のリスク回避にもつながります。
第3条・第4条・第5条申請の違い
条文 | 内容 | 例 |
---|---|---|
第3条 | 農地を農地のまま所有者のみ変更する申請 | 農業をやるために農地買うケース |
第4条 | 所有者が同一のまま農地を農地以外に変更 | 農地の所有者が農地に家を建てるケース |
第5条 | 転用と所有者変更を同時に行う申請 | 農地を宅地や工場用地として第三者に売却するケース |
- ポイント:第4条・第5条は「用途変更」が含まれるため、計画図や営農計画書(農業用から転用後の利用計画)が必須となります。
農地転用手続きの流れと必要書類
依頼主ヒアリングと事前調査
- 目的の確認
- 売買、賃貸、店舗開設、駐車場設置、公共施設用地など、依頼主の意図を詳細にヒアリングします。
- 現地確認
- 土地の形状・面積・隣接地状況を現地で確認し、写真撮影。調査書にまとめておくと以降がスムーズに進みます。
- 登記情報・公図の取得
- 法務省の登記情報提供サービスや地図情報システムを活用し、登記事項証明書・公図写しを取得します。
農業委員会への事前相談
- 市町村役場にて農業委員会に相談し、転用の可否や留意点を確認します。
- いわゆる「青地」(農業振興地域内農用地区域農地)の場合は、除外申請の要否と手続きを確認します。
申請書類の作成と提出
申請書は申請する農業委員会事務局のホームページからダウンロードができます。
特に、4条と5条の申請で作成、提出する書類は多岐にわたりますので、注意が必要です。
- 以下は作成例です
書類名 | 第3条必須 | 第4条・第5条必須 | 備考 |
---|---|---|---|
農地転用許可申請書 | ○ | ○ | 市町村長または都道府県知事あて |
位置図・現況図 | ○ | ○ | 公図に現況を明示 |
登記事項証明書の写し | ○ | ○ | 取得日から3ヶ月以内 |
土地利用計画書 | ― | ○ | 営農計画や開発内容を記載 |
補正対応 | 必要に応じ | 必要に応じ | 役場からの補正指示には速やかに対応 |
- 書類を整えたら申請先役場へ提出
- 補正依頼があれば迅速に対応
- 許可書受領後、登記手続きの引継ぎや契約書作成を進行
農地転用業務の注意点と事前準備
許可と届出
申請場所が市街化区域内である場合、書類を提出すれば認められる届出で済む場合があります。
市街化区域以外は基本的に許可申請となります。
申請難易度の違い
- 第3条申請:個人農家と農業法人で添付書類が異なる場合あり。
- 第4条・第5条申請:図面の作成や事業計画の内容が審査に大きく影響。専門家の意見書が必要になることもあります。
CAD操作スキルの習得
- 練習方法:無料ソフト(Jw_cadなど)で公図取り込みから配置図作成まで実践。
- 教材例:入門書「Jw_cad実践ガイド」、YouTubeチュートリアル動画。
- 学習ポイント:縮尺設定、座標入力、レイヤ管理、図形の編集。
青地・白地の区別と農振除外申請
- 青地(農振地域):除外申請(農用地区域変更申請)が必要で、許可まで1~2年かかる場合あり。
- 白地(非農振地域):除外申請不要で、通常1~3ヶ月で許可がおりる。
- 都市計画法の開発許可:青地や調整区域内、大規模開発を行う場合、開発許可も同時に必要です。新人行政書士は相談窓口や先輩への確認を必ず行いましょう。
費用と報酬設定のポイント
- 申請手数料:農地転用申請に基本的に申請手数料はありません。
- 報酬相場:小規模案件5万円~10万円、大規模案件20万円~50万円が目安。図面作成の㎡数によって増減する事務所が多い。
- 成功報酬型:許可取得後に報酬を請求する方法もあり。リスク管理やキャッシュフローに配慮して設定しましょう。
想定される顧客層と営業方法
主な顧客層
- 個人農家:相続や事業承継で農地を売却・活用したい方
- 不動産業者:開発用地の仕入れや販売をスムーズに進めたい企業
- 相続清算人:行政書士が相続清算人となることもある
営業方法とアプローチ方法
営業方法 | 方法例 |
---|---|
農業委員会相談会 | 市町村主催の相談会に登壇し、名刺交換・名簿獲得 |
地元広報誌・Web広告 | 実績紹介記事・バナー広告で認知度向上 |
不動産業者との提携 | 業務委託契約や紹介料設定で継続的な案件獲得 |
セミナー・勉強会 | 「農地転用の基礎知識」テーマで自社開催・講師招請 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 申請から許可取得までの期間はどれくらいですか?
A1. 白地での第5条申請の場合、書類不備がなければ申請後1~2か月が目安です。青地の場合は1年以上かかることもあります。
Q2. CADが使えないと業務を受任できませんか?
A2. 手書き図面で許可が下りる自治体もありますが、CAD図面の方が審査がスムーズです。学習を強く推奨します。図面作成だけ外注するという手も。
Q3. 報酬設定の基準は?
A3. 面積・申請種別・難易度に応じて変動します。相場は行政書士の報酬統計を参考にしてください。
結論・まとめ
本記事で解説した農地転用業務のポイントを以下に整理します。
- 農地転用業務の基礎知識
- 手続きフローと必要書類
- 注意点と事前準備(CAD、青地/白地、費用)
- 顧客層と営業方法
- FAQで疑問解消
これから行政書士として農地転用業務に取り組む皆様は、まず基本フローを押さえ、CADスキルの習得や農業委員会との連携を進めてください。
事例やFAQを参考に実務トラブルを未然に防ぎ、顧客の信頼を獲得することで、安定的な業務基盤を築くことができます。