行政書士として独立・開業を目指す、あるいは開業間もない皆様にとって、「どのような業務を手がけるべきか」は重要な課題です。数ある行政書士業務の中でも、資金調達に関わる「(創業)融資申請業務」は、特にこれから事業を始める個人のお客様から高いニーズがあり、行政書士の専門性を活かせる魅力的な分野の一つです。
しかし、「融資」と聞くと難しそう、専門知識が必要そう、といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、行政書士が手がける(創業)融資申請業務の基本的な内容から、なぜこの業務が創業期の個人事業主に求められるのか、具体的な手続きの流れ、業務を行う上での注意点、そしてどのように顧客を獲得していくかまでを、分かりやすく解説します。
この記事を読むことで、あなたは以下の情報を得られます。
- (創業)融資申請業務の全体像と行政書士の役割
- なぜ創業期において日本政策金融公庫への融資申請が重要視されるのか
- 行政書士が行う具体的なサポート内容と手続きの流れ
- 業務遂行にあたって必ず押さえておくべき注意点
- どのような顧客が想定されるか、効果的な集客方法
- この業務を始めるために行政書士自身が準備すること
- 融資申請業務で培ったスキルが活かせる他の業務
ぜひ最後までお読みいただき、あなたの行政書士業務の幅を広げるヒントとしてください。
行政書士が手がける(創業)融資申請業務とは?
(創業)融資申請業務の定義と概要
行政書士が関与する「(創業)融資申請業務」とは、主にこれから事業を開始しようとする個人や、既に事業を行っている企業が、事業資金を金融機関から借り入れるために必要となる一連の手続きを、専門家としてサポートする業務です。具体的には、金融機関への借入れ申込に必要な「事業計画書」の作成支援から、実際の借入れ申込までの一連のプロセスをサポートします。
この業務の主な対象となるのは、まさに「これから事業を始める個人」です。例えば、カフェを開業したい、オンラインショップを始めたい、フリーランスとして独立したい、といった方々が、事業を軌道に乗せるための初期費用や運転資金を調達する際に、行政書士のサポートを求めます。
行政書士は、法律・行政手続きの専門家として、お客様の事業内容を深く理解し、それを金融機関に適切に伝えるための事業計画書作成を支援します。単に書類を作成するだけでなく、お客様のアイデアや情熱を具体的な計画として形にし、金融機関の審査担当者に「この事業に融資をしても大丈夫だ」と納得してもらうためのストーリーを一緒に作り上げていく、創造的かつ専門性の高い仕事と言えます。
なぜ(創業)融資申請業務が行政書士にとって魅力的か
この業務が行政書士にとって魅力的なのは、いくつかの理由があります。まず、市場に一定のニーズが存在することです。毎年多くの個人が創業・独立を目指しており、それに伴う資金調達の需要は常にあります。
次に、行政書士の独占業務ではありませんが、事業計画書の作成や必要書類の準備といったプロセスにおいて、行政書士が持つ「書面作成能力」や「行政手続きに関する知識」を最大限に活かすことができます。また、お客様の事業内容をヒアリングし、それを整理・分析する能力も求められ、これは許認可業務などで培われるスキルと共通しています。
さらに、この業務を通じてお客様の事業のスタートアップに関わることは、行政書士としてお客様との長期的な信頼関係を築く第一歩となり得ます。融資が成功し、事業が軌道に乗れば、その後も様々な行政手続きや経営に関する相談を受ける可能性が広がります。
創業期に日本政策金融公庫が選ばれる理由
銀行と創業融資:個人が直面する壁
これから事業を始めようとする個人が、まず資金調達の手段として思い浮かべるのは、お近くの銀行かもしれません。しかし、現実には、事業の実績や担保がない創業期の個人が、民間の金融機関から融資を受けることは非常に難しいのが現状です。
既に事業を何年か続けている事業主や企業であれば、これまでの取引実績や決算状況、事業の安定性などに基づいて、金融機関も貸付の判断ができます。しかし、これから事業を始める個人には、そうした実績がありません。金融機関にとって、事業の将来性を見極めるのは難しく、リスクが高いと判断される傾向にあるのです。個人がいきなり事業資金の借入れを金融機関に相談に行っても、門前払いを受けてしまうことも少なくありません。
日本政策金融公庫の役割と創業支援
そこで重要な役割を果たすのが、「日本政策金融公庫」です。日本政策金融公庫は、政府が100%出資する政策金融機関であり、その使命の一つに「創業支援」があります。民間の金融機関では対応が難しい創業期を含む中小企業や小規模事業者への融資を積極的に行っています。
日本政策金融公庫には、特に創業をサポートするための様々な融資制度が用意されています。これらの制度は、民間の金融機関に比べて比較的利用しやすく設計されており、担保や保証人が不要な制度(一定の要件あり)や、低い金利で借り入れられる制度などがあります。
(創業)融資申請業務において、行政書士が日本政策金融公庫への申請サポートを主な業務とすることが多いのは、こうした背景があるからです。これから事業を始める個人のお客様にとって、日本政策金融公庫は最も現実的な資金調達先の一つであり、その申請手続きを専門家である行政書士がサポートすることの価値は非常に高いのです。
行政書士が行う融資申請サポートの詳細と業務の流れ
事業計画書作成サポートの重要性
融資申請業務における行政書士の最も重要な役割の一つが、「事業計画書」の作成サポートです。事業計画書は、単に融資を受けるためだけの書類ではありません。それは、あなたの事業のビジョン、具体的な戦略、市場分析、そして収益性を示す、いわば事業の「設計図」であり、金融機関が融資の可否を判断するための最も重要な資料となります。
行政書士は、お客様への丁寧なヒアリングを通じて、事業内容、ターゲット顧客、競合状況、販売戦略、そして何よりも重要な「資金計画」を明確化し、金融機関の担当者に理解されやすい論理的な構成で事業計画書を作成します。
事業計画書に盛り込むべき主な項目は以下の通りです。
- 事業概要: どのような事業を行うのか、その目的や理念。
- 経営者の略歴: 経営者の経歴、経験、事業への熱意。金融機関は「誰が」事業を行うのかを重視します。
- 取扱商品・サービス: 具体的な商品やサービスの内容、特徴、強み。
- 市場環境: 市場規模、ターゲット顧客、競合分析。
- 販売戦略: どのように顧客を獲得し、売上を上げていくのか。
- 従業員計画: 必要となる人員計画。
- 設備計画: 必要となる設備投資の内容。
- 資金計画: 事業開始に必要となる資金の総額、その内訳(運転資金、設備資金)、自己資金の額、そして借入希望額。この資金計画が、融資申請において最も重要な部分の一つです。 どのような目的で、いくら資金が必要なのかを明確かつ具体的に示す必要があります。
- 返済計画: 借入れた資金をどのように返済していくのか、現実的な返済シミュレーション。
- 収支計画: 将来の売上、費用、利益の見込み。損益計算書のような形式で作成します。
行政書士は、これらの項目をお客様と一緒に考え、ブラッシュアップし、金融機関が納得できるレベルの事業計画書に仕上げるお手伝いをします。
融資申請手続きの具体的な流れ
事業計画書の作成と並行して、または完成後に、融資申請手続きを進めます。日本政策金融公庫の場合の一般的な流れは以下のようになります。
- 相談・事前準備:お客様から事業内容や資金ニーズについてヒアリングし、融資制度の選択や必要書類についてアドバイスします。
- 事業計画書作成:お客様と協力して事業計画書を作成します。前述の通り、これが最も時間を要し、重要なプロセスです。
- 必要書類の収集:融資申請に必要な書類(お客様の本人確認書類、事業に関する資料、場合によっては見積書や契約書など)を収集します。
- 融資申込:作成した事業計画書や収集した必要書類を添えて、日本政策金融公庫に融資を申し込みます。インターネット、郵送、窓口など、申込方法はいくつかあります。
- 面談:申込後、日本政策金融公庫の担当者との面談が行われます。事業内容、事業計画の詳細、資金計画、返済能力などについて質問されます。行政書士は、面談に向けたアドバイスや、場合によってはお客様に同行することもあります(公庫の規定によります)。
- 審査・結果:提出された書類と面談内容に基づき審査が行われます。審査には通常数週間かかります。
- 融資実行:審査に通過した場合、融資契約の手続きを経て、資金がお客様の口座に入金されます。
行政書士は、この一連の流れにおいて、お客様がスムーズに手続きを進められるように、必要な書類の準備を促したり、疑問点に答えたり、金融機関とのコミュニケーションをサポートしたりします。
業務における注意点とクライアントへの説明責任
融資は確約ではないことを明確に伝える
(創業)融資申請業務を行う上で、最も重要かつ基本的な注意点は、「申込をすれば必ずお金が借りられるわけではない」という事実を、業務開始前に、そして業務中も繰り返しお客様に明確に伝えることです。
お客様は、事業を開始するための資金を切実に必要としており、「行政書士に依頼すれば融資を受けられる」と期待している場合が多くあります。しかし、最終的に融資を実行するかどうかは、金融機関(日本政策金融公庫)の審査次第であり、行政書士がその結果を保証することはできません。
この点を曖昧にしておくと、万が一融資が不承認となった場合に、お客様との間でトラブルに発展する可能性があります。「依頼したのに融資が受けられなかったじゃないか」というクレームにつながりかねません。
業務受任契約書には、この点を明確に記載し、契約締結時にお客様に口頭でも丁寧に説明することが不可欠です。融資の可否は行政書士のコントロール外であることを理解してもらい、行政書士の役割は「融資の可能性を高めるための最善のサポートを行うこと」にあると伝えることが重要です。
その他の注意点
- 情報の正確性:事業計画書や提出書類に記載する情報は、すべて正確でなければなりません。虚偽の記載は、融資が受けられないだけでなく、信用問題にも関わります。お客様から提供される情報の正確性を確認し、疑義がある場合はお客様に確認を求める責任があります。
- 守秘義務:お客様の事業に関する情報、財務状況などは極めてプライベートな情報です。行政書士は職業倫理として厳格な守秘義務を負います。お客様から知り得た情報は、適切に管理し、許可なく第三者に開示してはなりません。
- 報酬体系:業務の報酬体系について、事前に明確にお客様に提示し、同意を得ておくことが重要です。報酬額、支払い時期、融資が実行されなかった場合の取り扱いなどを明記した契約書を交わしましょう。着手金、成功報酬など、報酬体系にはいくつかの考え方がありますので、ご自身の事務所の方針を定めておきましょう。
- 関連法規:資金調達に関する法規や、日本政策金融公庫の融資制度に関する最新情報の把握が必要です。常に最新情報を確認するようにしましょう。
どんな人が顧客になる?効果的な集客方法とは
想定されるメインターゲット
(創業)融資申請業務における最も典型的な顧客は、「これから事業を始めようとしている個人」です。
- 会社を退職して独立・開業するサラリーマン
- スキルや特技を活かしてフリーランスになる個人
- 店舗を開いて商売を始めたい個人
といった方々が、事業資金の調達に課題を感じ、行政書士のサポートを必要としています。彼らは多くの場合、金融機関との付き合いがほとんどなく、融資の申請手続きや事業計画書の作成方法について知識や経験がないため、専門家のサポートを求める傾向が強いです。
一方で、既に事業を長年続けている事業主や会社は、顧問税理士がいる場合が多く、日頃から取引のある金融機関との関係も構築されています。そのため、資金調達が必要になった際も、まずは顧問税理士や取引金融機関に相談することが一般的であり、行政書士に融資申請業務を依頼するケースは比較的少ないと考えられます。
効果的な集客方法
ターゲット顧客にリーチするためには、彼らが情報収集を行う場所に積極的にアプローチする必要があります。
- ウェブサイト/ブログ:創業融資に関する役立つ情報(例えば、「創業融資を受けるための事業計画書の書き方」「日本政策金融公庫の新創業融資制度とは?」など)を掲載したブログ記事を作成し、SEO対策を行うことで、検索エンジンから顧客を誘導します。具体的なサービス内容、報酬、これまでの実績(守秘義務に配慮しつつ)などを分かりやすく記載したウェブサイトも必須です。
- SNS:X(旧Twitter)、Facebook、Instagramなどで、創業に関する情報発信や、行政書士の日常、サービスの紹介を行います。特に創業を検討している若い世代はSNSでの情報収集も多いため、積極的に活用しましょう。
- セミナー/勉強会:創業融資に関するセミナーや、事業計画書の書き方に関する勉強会を開催します。参加者との接点を持ち、専門性を示すことで、顧客獲得につながります。オンライン開催も有効です。
- 他士業との連携:税理士、中小企業診断士、司法書士などの他士業と連携ネットワークを構築します。税理士は顧問先から資金繰りの相談を受けることが多いため、創業融資が必要な顧客を紹介してもらえる可能性があります。中小企業診断士も経営コンサルティングを通じて融資ニーズのある顧客と接するため、有力な連携先となります。
- 地域との連携:商工会議所や地域の創業支援機関と連携し、そこで開催される創業セミナーで講師を務めたり、相談員として関わったりすることも有効です。
許認可業務とのシナジー
顧客の事業内容によっては、事業を開始するために許認可が必要な場合があります(例:飲食店営業許可、古物商許可、建設業許可など)。(創業)融資申請業務とこれらの許認可申請業務をセットで受注することで、顧客はワンストップで手続きを進めることができ、行政書士としても売上向上と業務の幅を広げることにつながります。創業を検討している顧客は、資金調達と許認可の両方で悩んでいるケースが多いため、両方に対応できることをアピールすると効果的です。
融資申請業務を始めるために行政書士が準備すること
自身の開業計画策定の練習と経験
(創業)融資申請業務を行う上で、最も実践的な準備の一つは、あなた自身の行政書士事務所の開業に向けた事業計画書を作成してみることです。自分自身の事業について深く考え、それを事業計画書として言語化するプロセスは、そのまま顧客の事業計画書作成サポートの練習になります。
どのようなサービスを提供し、どのような顧客をターゲットとし、どのように集客し、どれくらいの売上を見込み、どれくらいの資金が必要で、それをどのように調達・返済していくのか。これらを具体的に考えることは、顧客の事業計画を理解し、アドバイスする上で非常に役立ちます。
日本政策金融公庫を自身で利用してみる
もし、あなたが行政書士事務所の開業資金として借入れを検討している場合は、実際に日本政策金融公庫に自分で融資を申し込んでみることを強くお勧めします。この経験を通じて、公庫の担当者がどのような点を重視するのか、面談でどのようなことを聞かれるのか、手続きはどのように進むのかといった、肌感覚としての業務全体の流れを掴むことができます。
この実体験は、机上の知識だけでは得られない貴重な財産となります。お客様に対して、「私も公庫から融資を受けました。その経験から、融資を受けるために必要なことは熟知しています。」と伝えることができれば、お客様からの信頼を大きく得られるでしょう。また、お客様の疑問や不安に対して、自身の経験に基づいた具体的なアドバイスができるようになります。
関連知識の習得
事業計画書作成や資金計画の策定には、最低限の財務や会計に関する基礎知識が必要です。簿記の知識や、財務諸表(損益計算書、貸借対照表など)の基本的な見方を理解しておくと、顧客の事業の収益性や財務状況を分析し、より説得力のある事業計画書を作成することができます。これらの知識は、融資申請業務だけでなく、経営コンサルティングや補助金申請業務など、他の幅広い業務にも活かせます。関連書籍を読んだり、セミナーに参加したりして、継続的に学習することをお勧めします。
融資申請業務で培うスキルが活かせる他の業務
事業計画作成スキルを活かす
融資申請業務を通じて培われる「事業計画書作成スキル」は、非常に汎用性が高く、他の様々な行政書士業務に応用することができます。
- 補助金・助成金申請業務:国や地方公共団体が提供する補助金や助成金の申請には、多くの場合、事業計画書やそれに類する計画書の提出が求められます。融資申請で培った事業計画書の作成ノウハウは、そのまま補助金・助成金申請書類の作成に活かすことができます。
- 経営コンサルティング業務:お客様の事業内容を深く理解し、課題を抽出し、解決策を提案するスキルは、小規模事業者を対象とした経営コンサルティング業務につながります。事業計画書の作成は、経営コンサルティングの第一歩とも言えます。
- 創業支援業務:創業融資のサポートは、創業支援業務の中核をなすものです。融資だけでなく、法人設立、許認可取得、各種届出、契約書作成など、創業に必要な様々な手続きをトータルでサポートする業務へと発展させることができます。
金融機関や他士業とのネットワーク構築
融資申請業務を通じて、日本政策金融公庫の担当者や、連携する可能性のある他士業(税理士、中小企業診断士など)との接点が生まれます。こうしたプロフェッショナルとのネットワークは、情報交換、相互の顧客紹介など、あなたの行政書士業務全般にとって非常に貴重な財産となります。信頼関係を築き、良好なネットワークを維持することが、長期的なビジネスの発展につながります。
まとめ
本記事では、行政書士が手がける(創業)融資申請業務について解説しました。
- 行政書士が手がける(創業)融資申請業務とは?
- 創業期に日本政策金融公庫が選ばれる理由
- 行政書士が行う融資申請サポートの詳細と業務の流れ
- 業務における注意点とクライアントへの説明責任
- どんな人が顧客になる?効果的な集客方法とは
- 融資申請業務を始めるために行政書士が準備すること
- 融資申請業務で培うスキルが活かせる他の業務
(創業)融資申請業務は、これから事業を始める個人のお客様をサポートする、やりがいのある業務です。特に日本政策金融公庫の創業融資はニーズが高く、行政書士の専門性を活かせる分野と言えます。
ただし、融資は必ずしも実行されるわけではないため、事前の丁寧な説明が非常に重要です。お客様との信頼関係を築き、事業計画書の作成を通じてお客様の夢を応援する気持ちを持って取り組みましょう。
この業務を通じて培った事業計画作成スキルや関連知識、そして人脈は、あなたの行政書士としてのキャリアにおいて大きな財産となり、他の様々な業務へと広がる可能性を秘めています。ぜひ、この記事を参考に、(創業)融資申請業務に挑戦してみてください。